権藤ゆーきのストーリー ◇ 2008年お年賀SS
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うどんdeデート
「三が日はお休みします」
 入り口に大きな張り紙をしてお休み中の厨房で、なるみはうどんを打っていた。
うどん粉に水を混ぜ、まとまってきた所でビニールにくるむ。
「先輩に美味しいって言ってもらえますように!」
歌うようにつぶやきながら足で踏んでいく。
リズミカルになるみの素足がうどんをこねていき、見る見るうちに弾力とつやが出てくる。
「これくらいでいいかな?」
ツンツンつついて満足いくコシが出たのを確認するとうどんの方は作業終了して棚の中でしばらく寝かせる。
つゆは祖父が作り上げた「里なか」自慢のものではなく、なるみが一からチャレンジしたものをくつくつと暖める。
出来上がったものをお玉にとって味見。
「……うん!」
思ったとおりの出来のようで、大きく頷いたなるみは再びうどんの方に取り掛かる。
寝かせておいたうどんを丁寧に伸ばして折りたたんで店にある大きな包丁で切っていく。
やがてうどん粉のかたまりは綺麗で長いうどん麺に変身する。
「ここからはオリジナル……先輩喜んでくれるかなぁ?」
誰も見ていないのにもかかわらず聞かれないような小さな声をだすと、なるみは冷蔵庫の扉を開けた。
 なるみの祖父が営んでいる「里なか」は美味しい讃岐うどんが食べられると評判のお店で、年越しそばに主役を奪われそうな年末も大忙し。
なるみも冬休みに入ってからは毎日のようにお店を手伝っていて、せっかく憧れの人と付き合うようになったというのにクリスマスイブも、大晦日も全然会えずじまい。
お店が正月休みになってようやく会う約束が出来たのだ。
「どこに行こうか?」
優しい彼の質問にあれこれ悩んだなるみが出した答えが「ウチにうどん食べに来てください!」と言うもの。
「新作を考えたんで、先輩に食べてもらいたいんです」
おじいちゃんのお店を手伝うことが将来の夢であるなるみは日々美味しいうどんを作ることへの研究を怠らない。
そのことを良く知っている彼も「うどん楽しみにしているね」と笑顔。
かくして、お休み中のはずの「里なか」の厨房からはうどんの美味しそうな香りがいつものように漂っているのだ。
コンコンコン。
扉が遠慮がちな小さな音で叩かれる。
「開いてますよー!」
なるみの元気な声に扉が開かれ、彼の姿が現れる。
「おめでとう」
飛び込んでくるなるみを優しく抱きしめながら新年の言葉を彼が口にする。
「明けましておめでとうございます!」
彼のぬくもりを身体一杯うけとめながらなるみがますます元気な声をだす。
「ちょっ、ちょっと、なるみちゃん」
そのまま顔を近づけてキスの催促をするなるみに彼が慌てたそぶりを見せる。
「大丈夫ですよぉ、おじいちゃんは出かけちゃってるから誰もいませんし」
なるみの約束を知ってか知らずか祖父はぶらりと出かけていってしまったのだ。
決して交際を反対されているとかではないけれど、職人肌であるなるみの祖父に何となく苦手意識を持っている彼はそんな言葉に安心してなるみのくちびるに自分のくちびるを合わせる。
「エヘヘ、じゃあうどん仕上げちゃいますね」
長く熱いキスの後、照れたように笑ったなるみは足取りも軽く厨房に向かう。
近くの席についた彼の鼻を美味しそうなダシの香りがくすぐる。
今日のうどんも美味しそうだな、とダシの香りを楽しんでいる彼の耳には聞いたことのない音が聞こえてくる。
「なるみちゃん?何作っているの?」
うどん自体は何度も作ってもらっているけれど、初めて聞く音に彼が疑問の声と一緒に厨房を覗き込もうとする。
「すぐに出来ますから、座って待っていてください」
なるみの笑顔に彼は一旦浮かせた腰を落とす。
「お待たせしました!」
「ええっ、これは?」
目の前におかれた丼を見た彼は思わずびっくりしたような声を出した。
「ジャーン!今回の新作『ロースカツうどん』です」
 なるみが胸を張って新作うどんの名前を披露する。
丼に入ったいつものうどんの上にでんと乗っかっているのはきつね色に揚げられ、綺麗に切り分けられたた大きなとんかつ。
「とにかく、食べて見てください!」
なるみにせかされながら彼がうどんに、そしてとんかつにかぶりつく。
「……へぇーっ」
黙々とうどんを食べきった彼が最初にもらしたのは、そんな意外そうな言葉だった。
「うどんにカツなんてしつこいかと思ったけど、美味しいよこれ」
彼の答えになるみの表情が最高の笑顔に包まれる。
「そうなんですよ!うどんって若い人だと少し物足りないから、カツを入れてみたんです。これならおなか一杯食べられると思って」
得たりとばかりになるみの説明が始まる。
「ヒレよりロースの方がボリューム感があるし、お肉には軽く塩コショウしてあるんです。それで、ダシの甘みとバランスが取れるんです。それで……きゃ」
堰を切ったようななるみの説明が途切れたのは、なるみのくちびるを再び彼のくちびるが塞いだから。
「ありがとう、美味しかったよ。最高のデートになったよ」
「先輩……」
なるみも目を閉じて再び二人は長い長いくちづけを交し合った。
「あ、そういえば先輩」
 しばらくくちづけの余韻に浸っていた二人は、何かに気付いたかのようななるみの言葉で現実に呼び戻される。
「まだまだ、新作のメニューがあるんです。ちょっと待っていてくださいね」
「ちょっ、ちょっとなるみちゃん……」
つい先ほどと同じような彼のセリフは「すぐに出来ますから、座って待っていてください」というやっぱり同じようななるみのセリフにかき消される。
「うどんdeデートか、お正月からおなか一杯で幸せだなぁ」
彼は既にふくれているおなかをさすりながら半分あきれた、半分は本音の言葉を口にしていた。
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2008(p) 権藤ゆーき