権藤ゆーきのストーリー ◇ 2008年のヴァレンタインデーSS
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True Re-start
 台所に甘い甘い香りが漂っている。
その甘い香りの元であるチョコレートが溶けているお鍋に向かいながら里佳は半分思い出しているような、半分不安なような表情を浮かべている。
「手作りっていっても、今にして思えば簡単よね」
つぶやきながら溶けたチョコレートをハートの型に流し込んでいく。
 やっと、分かり合えた。
里佳と彼は4年間に及ぶ長い長い絶交期間の後、ようやくわだかまりを解くことが出来て恋人同士になることができた。
恋人同士になっても、時々喧嘩して、それで仲直りしながら2人の絆は強くなっていった。
もちろん、里佳自身もそう感じている。
でも、一つだけ。
一つだけ心の中に解決しなければいけないことがあるということにも気が付いている。
「あの頃はここまで綺麗なハート型にならなかったわね」
 冷蔵庫にしばらく入れられたチョコレートは綺麗なハート型チョコレートに変身していた。
型から取り出されたチョコレートは可愛らしい白い箱に収められる。
里佳はこの日のために用意した赤い包装紙を取り出す。
 幼馴染の二人。
小学生の頃は彼と、彼の双子の姉との3人で毎日のように遊んでいた。
そんな毎日の中で少しずつ芽生えていった恋と呼ぶにはあまりに幼い感情。
でも、里佳の心の中には彼に対する「好き」って気持ちは確かにあったのだ。
そう、あの日のヴァレンタインデーまでは。
「さ、後はリボンを掛けたら完成よ」
 そう言いながら里佳は赤い箱に白いリボンを掛けていく。
キュキュッと小気味良い音を立てて赤い箱はリボンを纏い、可愛らしいプレゼントボックスにその姿を変えていく。
「あの時よりも綺麗にリボンを掛けられたわね」
小学生の時はもっと不細工なリボンの掛け方だったなぁと里佳の表情に照れ笑いが浮かぶ。
「どうして?」
 喜んでくれると思って渡した赤い箱は、彼の手によって窓の外に投げ捨てられていた。
 2月14日。
女の子が「好き!」って気持ちをチョコレートのプレゼントに託して贈るスペシャル・デー。
里佳はこの日のために赤い包装紙と白いリボンで可愛くラッピングしたハート型の手作りチョコレートを一所懸命作ってプレゼントしたのだ。
もちろん「好き」って気持ちを込めて。
 照れながらも「ありがと」の言葉が返ってくると思ったのに。
喜んでもらえると思っていた彼は、心を込めたプレゼントを窓から外に投げ捨てたのだ。
本当は彼が照れ隠しについ取ってしまった行動だったのだが、傷ついた里佳の心が再び素直な気持ちを取り戻すまで長い長い時を経なくてはならなかったのだ。
 完成したプレゼントを里佳は枕元に大切に置く。
「あの時と同じように」
そうつぶやきながら「彼が喜んでくれますように」と祈りを込める。
そして、ドキドキを感じながら眠りにつく。
「あなたには、かなわないわ」
 小学校を卒業し、そして中学生生活のほとんどという長い長い時を経て、やっと傷ついた里佳の心が開かれて、二人は恋人同士になることができた。
恋人同士になっても、時々喧嘩して、それで仲直りしながら2人の絆は強くなっていった。
もちろん、里佳自身もそう感じている。
でも、一つだけ。
一つだけ心の中に解決しなければいけないことがあるということにも気が付いている。
「おはよう!」
 翌日、里佳はドキドキ高鳴る鼓動を右手で押さえながら彼に声を掛ける。
 今日は2月14日。
女の子が「好き!」って気持ちをチョコレートのプレゼントに託して贈るスペシャル・デー。
振り向いた彼にたった今まで高鳴る胸を押さえていた右手をカバンの中に動かして思いを込めたプレゼントを取り出す。
「はい、あの時と同じチョコレート。受け取ってくれるかしら?」
 そう、あの時彼の手によって窓の外に投げ捨てられてしまった里佳の気持ち。
里佳の心の中にある、一つだけ解決しなければならないこと。
「もちろん、喜んで」
 彼が満面の笑顔で気持ちを受け取る。
「白いリボンに、赤い包装紙……ってことは、やっぱり、ハート型のチョコレートだ!」
ガサガサとプレゼントを開いた彼は里佳に嬉しそうな声を掛ける。
「本当?覚えていてくれたの!」
「もちろんだよ、あれから急いで拾ったのだから」
「嬉しい!」
里佳が彼に抱きつく。
「ずっと気になっていたの。恋人同士になってからもずっとずっと」
「これで……これで本当のスタートが切れた気がする!」
心の中にあったものが溶けて行き、里佳の頬に一筋だけ流れを作る。
「ごめんな、そんな気持ちにさせていて……でも、これからはずっと一緒だから」
彼は里佳がビックリするくらいの力でギュッと抱きしめてくれた。
「そうだ、一緒にチョコ食べようよ」
しばらく里佳をギュッと抱きしめていた彼がハートの右側を口に入れたまま口元を近づけてくる。
「え?うん……」
一瞬びっくりした表情を浮かべた里佳だが、頷くと目をつぶってハートの左側に口をつける。
そのまま二人はチョコレートを食べていき、そして……。
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2008(p) 権藤ゆうき