権藤ゆーきのストーリー
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星の王子様
まだ、慣れないなぁ。
わたしはふぅっとため息を一つついてつぶやく。
ずっと住んでいた輝日南の街を離れて、新しい街に引越ししてもう数日がたつというのに、まだ心の中に住み慣れた輝日南の街、そして気持ちを確かめあった彼のことを思って不安な気持ちになってしまう。
「ごめんなさい、不安な気持ちで」
ハンガーに掛けられた可愛らしい制服。
明日から通う新しい高校の制服にゴメンネを言ったりしてみる。
「……」
それでも、ぬぐえない不安。
「あ……うん!」
大好きな人の姿を思い浮かべて、改めて思い直す。
「うん、大丈夫……大丈夫……よね……」
輝日南の町で思いを伝え合った、大切な彼。
目を瞑ってあの人の笑顔を、ぎゅっと抱きしめてくれた力強い両腕を思い浮かべると、段々と不安な気持ちが小さくなっていくようで。
そうよね、こうして不安がっていても仕方がないよね。
「そうだ!」
不安が小さくなってきたら、良い案が浮かんだ。
「この街が大好きになるように、お散歩してみよう!」と。
 折角引っ越してきたのに、お部屋の整頓とかに追われていたわたしは今度通うことになった高校と、近所のスーパーくらいしか行っていないことに気付いて、どこに何があるか冒険してみよう!と思いついたのだ。
「いつまでも引っ込み思案じゃ、ダメだよね。ありがとう」
彼の顔を思い浮かべたときに出てきた案に、もしかして彼が導いてくれたのかなぁ?と感謝の気持ちを込めながら輝日南の街の方にそっとお礼を言って、わたしは外出の支度を始めた。
 わたしはう〜んと伸びを一つして胸いっぱい空気を吸い込む。
ぽかぽか暖かい日差しに包まれた新しい街。
これからを過ごすことになる新しい街。
「これからよろしくね」
花屋さんに、ケーキ屋さんに始めましてのご挨拶。
わたしは始めましての言葉を繰り返しながら、色々なところを歩いていく。
「あった!」
お目当てを発見して大きな声がでてしまう。
 わたしが一番好きなことは読書。
そんなわたしにとって一番好きな場所である本屋さんを見つけたのだ。
「大きい本屋さんで、嬉しい!」
大きなガラス越しに沢山の本棚が見えるその本屋さんは、輝日南にあったお気に入りの本屋さんよりずっとずっと大きな店構えで、これなら探している本が見つけやすくなるかも!とうきうきとした嬉しい気持ちになって始めましてのご挨拶だけでなく、わたしは早速本屋さんに入っていった。
「うわぁ、すごい」
 わたしは思わず声を出してきょろきょろと見回しながら本屋さんの中を歩いていく。
 ガラス越しに見えただけでなく、奥行きも充分に広く沢山の本が置いてある本屋さんで、わたしはスキップを踏むように色々なコーナーをめぐっていく。
「あ、あの本もある。この本も欲しいなぁ」
いくつかの本を手にしながらついつい時間のたつのを忘れてしまう。
「あ……この本……」
ふとある本の題名が目に飛び込んできて、わたしは輝日南にいる大切な彼とのエピソードを思い出した。
「え?わたし……?」
 いつものように図書委員の仕事をしていたわたしは、いきなり名前を呼ばれてびっくりして振り向く。
そこにいたのはクラスメイトの男の子。
「あ……いや……その」
彼が真っ赤な顔をして言葉をつまらせている。
「いや……そう、『星の王子様』って本がどこにおいてあるのかなぁ?って思って」
「あ……そうだったの」
星乃!って呼ばれたと勘違いしていたわたしも彼と一緒に言葉をつまらせてしまう。
「えっと、それだったらこっちよ」
なんだか恥ずかしい気持ちになったわたしは彼に背を向けるとリクエストされた本の置いてある棚の方に歩き出した……。
 そんなエピソードが始めての出会い。
その後、いきなり「キスしたことある?」なんてびっくりの質問から少しずつ彼との距離が近づいていって。
恥ずかしがり屋を治したいって思っていたわたしに妹さんやそのお友達を紹介してくれて、そのおしゃべりに慣れたことで少しずつクラスのお友達ともお話しできるようになったきっかけを作ってくれたり、輝日南高校の思い出を作ろうと立候補したチアリーダーの練習に協力してくれたり。
そんな彼がいつの間にかなくてはならない大切な人になっていった……。
「ありがとうございました」
 店員さんの元気な挨拶に見送られて、わたしは本屋さんを後にする。
「たくさん買っちゃったな」
手提げ袋一杯に収められた本を見てつぶやく。
始めましてのご挨拶代わりに欲しいなぁと思っていた本をあれこれと買ってしまったのだ。
その中には「星の王子様」も入っている。
小さい頃に何回も読んだ本なのだけれど、急に大切な人とのエピソードを思い出して、もう一度読んで見たいと思って買ったのだ。
「さ、早くお家に帰って読みましょう」
まだ不安な気持ちは心のどこかにあるけれど、大好きな本を読んで忘れてしまいましょうと思ったわたしはお家に向かって歩くスピードを少し速めた。
「ただいま……あれ?」
 すこしあがった息を整えながらお家のドアを開けたわたしの目に飛び込んできたのは一通の封筒。
「あ!」
差出人は大切な彼からだった。
びっくりして、わたしはバタバタと足音を立ててお部屋に飛び込む。
心臓がドキドキする。
彼からお手紙が来るなんて、どうしたのかしら?
嬉しい気持ちと、ちょっぴり不安な気持ちがない混ぜになったわたしは大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
少し落ち着いた所でわたしはペーパーナイフを使って丁寧に封筒を開いていく。
「やっぱり、心配してくれていたのね。ごめんなさい、そしてありがとう」
 手紙は新しい高校に通うわたしに「今一番不安だと思うけれど、星乃さんなら大丈夫だから。自信を持って」と記されていた。
わたしのことを何でも知ってくれている彼が心配してくれたお手紙に、一粒の涙でごめんなさいとありがとうの言葉を返す。
その涙が止まったのはお手紙の最後に書いてあった追伸だった。
「星乃さんに始めて声を掛けた時の事覚えている?あの時は『星の王子様』がどこにあるかな?ってごまかしたけど、本当は親しくなりたくって『星乃さん』って名前を言おうとしたんだ。でも、星乃さんがあんまりビックリした雰囲気で振り向いたので言葉が出なくなってしまって、あんな言い訳したんだよ」
 そうだったの!
びっくりしながらも、あの時見せた彼の真っ赤な顔を思い出す。
そんな楽しい気持ちになっているうちに心の中に残っていた不安な気持ちがすっかりなくなっていることに気付く。
「わたしの『星の王子様』はあなた一人。どうもありがとう、もう大丈夫!」
輝日南のほうに向かってお礼を言ったわたしは今日買ったばかりの「星の王子様」のページを開いた。
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2008(p) 権藤ゆうき