権藤ゆーきのストーリー ◇ 2006年のヴァレンタインデーSS
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It's a Saint Valentine's Day, too
「あ、待ってよぅ!たまには一緒に行こうよ」
登校しようとしていたおれはその言葉を背中に受けて足を止める。
「いいぜ、一緒に行こう」
そんな答えにぱたぱたと走ってきたのは双子の姉であるかなめである。
軽やかな足音が近づき、横に並んだのを確認してから一再び歩き出す。
「そう言えば今日バレンタインデーだよね、一つ位もらえそうなの?」
「う、うるさいなぁ!そう言うかなこそチョコ渡す相手いるのかよ?」
「いないよ。だって私女子高だもーん」
「あ、そうか。逆にまどかちゃんからもらえるんだろう?」
「わっ!やめてよもう」
たわいもないおしゃべりが続く。
「それにしても、こうやって一緒に歩くの久しぶりだねぇ」
かなめがふと問い掛けてくる。
「そうだな。高校も違うし、いつもはかなが部活の朝練で早く出ちゃうしな」
そんな言葉に納得顔が返ってくる。
 一緒に登下校するのが何となく気恥ずかしくて避けていた中学時代。
だが、進学先の高校が別々になってしまった上、中学から続けているバレー部の練習に忙しいかなめとは時間が合わなくなってしまい、めったに登校時間が一緒になることがなくなってしまったのだ。
だから、たまに時間が合った時などはお互いの高校の話をしたりしながら駅までの道を楽しむようになっている。
「それにしても、もうそろそろ1年になるんだねぇ。早いなぁ」
かなめのそんな言葉に今度はおれが納得する。
 中学時代の仲良したちは高校進学でバラバラになってしまった。
おれは公立高校に進学したが、かなめの進学先は女子高だし。
中学時代の男友達も実こそは一緒の高校に進学したけれどクラスが違うし、太一は私立高校に進学とバラバラになってしまった今はなかなかつるんで遊んだりすることがなくなってしまった。
始めは少し寂しかったけれど、すぐに新しい友達も出来て、男女問わない仲良しグループであれやこれやと楽しい毎日を送っている。
いや、送っていたのだ。
このごろおれを悩ましているただ一人、中学から一緒の女子のことを除いて……。
「あ、そうそう遊季元気にしている?」
かなめが彼女の名前を口に出す。
「……あ、ああ。元気だよ、相変わらず」
今、あまり話題に出して欲しくない名前が飛び出したおれはぶっきらぼうな言い方になってしまう。
「ん?……あ、着いちゃった。一緒だと早いね」
「あ、ああそうだな。それじゃ」
かなめが疑問口調になるのと、駅への到着がほぼ同時。
ここで別方面の電車に乗ることになるのでおれはかなめに突っ込まれる前にあわてて自分が利用している電車のホームに向かって歩き出した。
 急行電車にギュウギュウ詰めになっているサラリーマンを横目に、向かいで待っている各駅停車に乗り込む。
通っている高校は急行電車も止まる駅が最寄りなのだが、ギュウギュウ詰めの急行電車よりもたまには座れる各駅停車の方に時間はかかっても乗るようにしている。
今日も座ることは出来なかったけれど、ドア近くのコーナーを占める事が出来たおれは握り棒に寄りかかるようにしてゆっくりと流れていく風景を見つめる。
でも、頭の中に浮かぶのは全然違う風景。
そう、おれを悩ませている女子、紺野遊季のことしか浮かんでこない。
ため息を一つつきながら彼女のことを考え始める……。
高校一年、一学期の始業式。
「いてっ!あ、紺野さん」
ドキドキしながらクラス分けの発表を眺めようとしていたおれは勢い良くポーンと肩を叩かれて振り返る。
そこにはツーテールにまとめた髪を揺らしながら微笑む同じ中学出身の紺野さんの姿があった。
「一緒のクラスよ、1年間よろしくね」
「え?一緒のクラス??」
「そうよぅ!まだ見てないの?」
「うん、これから見ようと思っていたんだ」
確認するとおれの名前の少し上に紺野さんの名前があるのを発見する。
「あ、本当だ。でもどうやら美空中出身は2人だけみたいだね」
「そうなのよぅ!あなたがいてくれて良かったわ。誰も知り合いがいないだなんて嫌だもんね」
「おれもちょっとホッとしたよ。紺野さんよろしくね」
 美空中学からこの高校に進学した知り合いはそんなに多くなかったので、中学時代に一度もクラスメイトになったことがないとは言え、かなめと仲が良く、その関係もあっておしゃべりしたこともあった紺野さんが同じクラスだったのはおれにとってラッキーだった。
ラッキーだったのはそれだけじゃない。
紺野さんは持ち前の明るい性格で男女問わず仲良しをすぐに見つけ、一緒にいたおれも一緒に仲良くなって自然とクラスに溶け込むことが出来たのだ。
 高校生活が始まってしばらくするとクラスの中でも特に仲の良い男子3人、女子3人のグループができ、一緒に行動するようになった。
もちろんその中には紺野さんもいる。
仲良しグループで授業中も先生に隠れて携帯メールを打ち合ったり、お昼は食堂だけじゃなくって屋上や中庭で一緒に食べたり、休みの日は6人で遊びに行ったり、夏休みはハンバーガショップに集合して宿題を少しとおしゃべりたくさん、なんて生活を送っていたのだ。
そう、始めはそんな仲間達に恵まれたのを楽しんでいたのだ。
そんな気持ちがだんだん変化していった。あれは一体、いつからだったのだろう……。
「弟くん、弟くんってばぁ!」
ぼけっとそんなことを考えていたおれは元気の良い声にハッと我に返る。
声の主は今の今まで考えていた存在、紺野さん。
「あ、ああ。紺野さん。おはよう」
今まで考えていたことや、彼女に対する複雑な思いが交じり合って、今一つ歯切れの良くない声を出してしまう。
「まったくぅ、何回呼んでも返事がないからどうしちゃったのかと思ったのよ」
左手の人差し指をピッと立てる仕草は中学時代から変わらない。
「ん?どったの。元気ない声出しちゃって」
おれの反応を見た紺野さんがすかさず突っ込む。
「あ、そっかぁ。今日のバレンタインにチョコレートもらえるかどうか気にしているんでしょう?」
答えられずに固まっているおれに構わず続ける紺野さん。
「それなら大丈夫よ。はいっ!」
そう言ってカバンの中からちっちゃな包みをおれのほうに差し出す。
「他のメンバーも一緒のだけどね」
「あ、ああ。ありがとう」
包みを受け取るおれの言葉は相変わらず歯切れが悪い。
「なーによぅ。かわいい女の子からチョコもらったんだからもう少し嬉しそうな顔しなさいよ!」
ちょっと不機嫌そうな表情になる紺野さんに「ゴメンゴメン、嬉しいに決まっているじゃないか」とフォローする。
本当の気持ちは違う。
本当は、こんな義理チョコじゃなくって……。
おれの思考は電車が最寄り駅に着いたことと、紺野さんのおしゃべりに邪魔されてストップせざるを得なかった。
 駅からの道も紺野さんが一方的にしゃべって、おれがうなづく展開。
まぁ、いつものことといえばいつものことなのだが、今日は特におれが静かになってしまっている。
軽い足取りでおしゃべりを続ける紺野さんが少し前に出てはこちらを振り返る。
そのたびにポニーテールにまとめた髪が揺れて、それを目にするおれの動きが余計に鈍くなる。
そう、そのイメージチェンジした髪型も、おれを悩ませているのだ。
 そんなおれの気持ちを知らない紺野さんの陽気なおしゃべりは校門をくぐり、教室に入るまで続いていた。
 授業中に教科書から目を離して右前に視線を移すと紺野さんの後ろ姿を見ることが出来る。
何度か席替えはあったのだが、いつもおれの右前には紺野さんがいる偶然にも恵まれて授業中に彼女の後ろ姿を見るのがすっかり習慣になってしまっていた。
 居眠りしていたり、先生のギャグに大笑いしていたり、こっそりマンガを読んでいたり、時たま真剣に授業を受けていたり……。
後ろ姿だから表情はわからないけれど、揺れるツーテールを見ていると何となく紺野さんの気持ちがわかってくるようで。
 今日は緊張しているな……。
微妙に揺れているポニーテールがそのことを伝えてくれている。
 そう、おれは自分の気持ちに気がついているのだ。
「紺野さんのことが好き」ってことを。
そして、もう一つ気がついている。
「紺野さんはおれじゃない違う人のことが好き」だってことを。
「ねぇねぇ、転校してきた先輩がいるんだけど、超カッコ良くない?」
 三学期が始まってすぐのこと。
紺野さんが話題に出した転校生の先輩。
はじめは、ただの世間話だと思っていたのだけれど。
「今日、バスケットで見事なゴールを決めていたわ」
「ソフトボール部の先輩が同級生で聞いたんだけど、勉強も出来るみたい」
「転校してすぐに告った先輩がいたんだけど、断られちゃったんだって」
 その後、紺野さんの話題は先輩のことばっかり。
おれは、何となく嫌な気持ちになりながら相槌を打っていたのだけれど、どうして嫌な気持ちになってしまったのかわかったのは、紺野さんのイメージチェンジがきっかけだった。
「ええっ!どうしちゃったの?」
クラスメイトの驚いたような声に「うん、ちょっとね」と言葉少なに答える紺野さん。
みんなが驚いたのも無理はない。
紺野さんのヘアスタイルがトレードマークのツーテールからポニーテールに変わっていたのだから。
「どう、似合うでしょ?」
そんな紺野さんの言葉を聞こえなかったふりをして答えないおれ。
だって、ポニーテールは転校してきた先輩が転校前に愛を誓ったって言う彼女のトレードマークだったヘアスタイルなのだから。
そして、痛いような気持ちが心臓をドキドキさせる。
今まで、何となくしか感じていなかった気持ち。
それを改めて実感する。
「おれは、紺野さんのことが好き」なのだという気持ちを。
でも、言えなかった。
何となく感じていたときも、そして今も。
もしも紺野さんに気持ちを伝えて、その気持ちが届かなかったとしたら。
今まで仲良くしていたグループの間もギクシャクしたものになってしまうのでは?
そんなことを考えてしまったおれは紺野さんに気持ちを告げることが出来ないまま今日を迎えてしまったのだ。
 おれに出来るのは今日のバレンタインデーにチョコと一緒に気持ちを伝えるであろう紺野さんの緊張している気持ちをポニーテール越しに眺めることだけだった。
 放課後、おれは校内を歩き回っていた。
「見たくない、でも見届けたい」
そんな思いがおれの足を動かしていたのだ。
 紺野さんのことが好きなのは間違いのない確かなおれの気持ち。
でも、彼女がおれじゃない好きな人に思いを伝えるのであれば、成功を祈りながらそっと見届けよう。
そう考えたのだ。
「……!」
人気の少なくなった中庭にさしかかったおれの足が止まる。
そう、そこにいたのは紺野さんと先輩。
そしておれの目に飛び込んできたのは「ごめんね」と頭を下げて紺野さんが差し出した包みを受け取らないまま去っていく先輩の姿。
紺野さんは渡せなかった包みを片手に肩を震わせている。
おれは強烈に後悔していた。
自分の気持ちを告げることが出来ないくせに、のこのこと紺野さんの告白シーンを見に行って、しかも最悪のシーンを見ることになるなんて。
このまま、紺野さんに気づかれないようにいなくなろう。
紺野さんが悲しんでいるところなんて見たくないからな。
そう決めて黙ったまま立ち去ろうとしたその時だった。
「どうして、こんなところにいるの?」
振り向いた紺野さんの頬には涙の跡がついていた。
「ゴメン……」
それだけしか言えずにおれは立ち尽くす。
「はじめからわかっていたの。先輩に好きな人がいるってことは」
紺野さんは新しい涙をこぼしながら話し始める。
「わかっていたの。髪形を変えたって先輩の想っている人にはなれないなんてことは」
「でも……でもね。想いを告げないで後悔する位なら思い切って告白して後悔したほうが良いと思ったの」
 紺野さんの言葉におれはハッとなる。
おれは何てバカなのだろう。
「今まで仲良くしていたグループの間もギクシャクしたものになってしまうのでは?」
なんて余計なことを考えて、結局何も出来ないままで。
そこまで考えた時、頭の中が真っ白になるのを感じて、おれは包みを持ったままの紺野さんの右手を思わず握り締めていた。
「えっ?何……」
 いきなりのことに紺野さんの表情が泣き顔からビックリしたものに変わる。
「紺野さん、このチョコレートどうするの?」
「え……?」
おれの突然の質問に紺野さんの言葉が止まる。
「もし良かったら、このチョコレートおれにくれないか?」
驚いた表情のままこちらを見つめる紺野さんにおれは言葉を続ける。
「本当は、本当は告白したかったんだ……」
「もしダメだったら皆との間がギクシャクしたものになってしまうんじゃないか?とか考えちゃって」
「こんな時に告白されたって、迷惑だと思うけど……」
「おれは、紺野さんのことが好きだ!」
そこまで言った時、紺野さんがおれの手を払いのける。
「ゴメン……」
おれは再び後悔する。
 シチュエーションも何も考えないで、一人で突っ走ってしまって。
紺野さんの気持ちも何も考えないで告白しちゃって……。
真っ白になった頭が今度は真っ暗になったその時だった。
「バカ……」
紺野さんのつぶやくような声。
「今日は何の日か知ってる?女の子から愛を告白する日なのよ」
「ゴメン……」
謝るおれにううん、と紺野さんが首を振る。
「いいの。それより、さっき言ったのって本当?」
「え……もちろん本当だよ」
「たった今あなたじゃない人に告白していた私なのよ」
そう言って紺野さんがまっすぐおれの方を見つめる。
「そんなの関係ない。だって、おれは紺野さんのことが好きだから。それに、想いを告げないで後悔する位なら思い切って告白して後悔したほうが良いと思ったって紺野さんにたった今教えてもらったところじゃないか」
そう言っておれも紺野さんをまっすぐ見つめる。
「バカだったなぁ。私を見つめてくれている人がこんなに近くにいたのに、気が付かなかったなんて」
しばらく見つめあってから、紺野さんが照れくさそうにつぶやくと右手の包みをおれのほうに差し出す。
「このチョコレート、受け取ってもらえるかしら?」
「もちろん!」
そう言ってチョコレートを大事に受け取る。
「これから少しずつ恋人同士になっていこう!」
そう言いながら右手を差し出す。
 これも一つのバレンタインデーだよな。
男のおれから告白したことにちょっと苦笑いしながらおれは紺野さんが握り返してきた右手をぎゅっと握り締めた。
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権藤ゆーき / 2006(p) Lovetale vox