Navyblue ♦ Stories
権藤ゆーきのストーリー
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ルーズ・パニック
「う〜ん……」
戸惑いの声を出しながら机の上に広げてあるそれを見つめる。
「う〜ん……」
もう一度戸惑いの声を上げてそれを手に取ってみる。
今まで使っていたものの倍以上の長さがある白くて長いそれは引っ張るとさらに長く伸びていく。
「う〜ん……」
手にしているのは初めて買ったルーズソックス。
「う〜ん、やっぱり似合わないよぅ……でも」
それを穿いている自分の姿を想像しながら一人部屋に悩み声を響かせる。
「……君子です、よろしくお願いします」
 転校先の学校でドキドキしながら挨拶する。
お父さんのお仕事の関係で引っ越してきたこの町は今までずっと暮らしていた青葉台から遠く遠く離れている。
お友達できるかなぁ?お話し合うかなぁ?
引っ越してからクヨクヨとずっとずっと心配していて。
始業式の日、新しい制服を着て登校する時は心臓のドキドキが止まらなかった。
 でも、挨拶して着席した瞬間に隣の席の子が話しかけてきてくれてドキドキはホッとした嬉しい気持ちに変わっていった。
授業中こそこそお話しして仲良くなった隣の子に早速次の休み時間には学校を案内してもらったり、お昼ご飯を一緒にたべよ!ってその子の仲良しグループに誘ってもらったり。
帰る頃にはまるで昔からのお友達みたいにおしゃべりできるクラスメートが何人も出来て不安な気持ちもどこかに吹き飛んでしまった。
「えーっ、やっぱり私はいいよぅ」
右手を振って断る私を無視するかのようにお友達がそれを差し出す。
「そんな事言わないの、ホラ」
差し出されたのは白のルーズソックス。
「君子は初めてだし、そんなに長くないのを選んだんだから。いいでしょ?」
「う〜ん、でもぉ……」
無理やり右手に握らされたそれを見ながら躊躇の声を出す。
 ドキドキの転校挨拶からしばらくがたって、新しい高校生活にもすっかり慣れた。
お友達もたくさん出来て、放課後は毎日のように寄り道したり、夜はお母さんに怒られちゃうくらい長電話でおしゃべりしたり。
青葉台高校時代と同じくらい楽しく毎日を過ごすことが出来ている。
でも、青葉台時代と一つだけ違うことがあって、ちょっぴり悩んでいる。
「もぅ、いつまで迷っているの?ルーズ穿いてないの君子だけなんだから君子もルーズ買おうよ」
ルーズソックスを握り締めて立っていた私にお友達が声を掛ける。
 そう、青葉台時代と一つだけ違うこと。
それは、みんなの足元がルーズソックスなこと。
特に禁止されていたわけではなかったのだけれど、青葉台高校のみんなは誰も穿いていなかったし、似合わないだろうなぁと思っていたので普通の短いソックスしか穿いたことがなかった私の足元は転校先でももちろん白の短いソックス。
「一人だけだとかえって変だよ。君子もルーズにしなよ!」
お友達みんなにそう言われても、「似合わない」って気持ちがある私は「いいよぅ」ってごまかしていたのだけれど。
「んもう、だったら選んであげるから一緒に買いに行こう!」
一番仲良くしているお友達に強引にお店に連れてこさせられて、渡されたのが今握り締めているルーズソックス。
チラリとお友達の方を見る。
「早く買ってきちゃいなよ」お友達の視線がキャッシャーの方に導いているのが解る。
このままルーズソックス握り締めて立っていても許してもらえそうに無いしなぁと諦めてカバンからお財布を引っ張り出した。
「う〜ん……」
 こうして買ったルーズソックスを前に何度目になるかわからない戸惑いの声を上げる。
折角お友達に選んでもらったのだし、明日穿いて行かなかったら悪いしなぁ。
「でも、やっぱり似合わないよぅ……」
さっきからずっと同じ言葉を繰り返す。
そんなことを何度となく繰り返した後、のろのろとルーズソックスを穿いてみる。
「うわぁ、何だか変な感じ」
ふくらはぎから足首にかけて頼りなく絡み付いているような初めての感触を気持ち悪く感じて声を出す。
「やっぱり、似合ってないよぅ」
足元を見て改めて確信する。
歩くとそれはますます気持ち悪く絡み付いてくる感じがする。
気持ち悪い感じが抜けないままタンスまで歩いて制服を引っ張り出すと、制服姿になって鏡の前に立つ。
「う〜ん、やっぱり似合ってないよぅ……」
やっと慣れてきた制服に初めてのルーズソックスという姿の自分をまじまじ見つめて同じセリフ。
鏡を見ながら「似合っていないから嫌だなぁ……でもお友達がせっかく選んでくれたのだし、明日はルーズソックス穿いて学校に行かなきゃだめかなぁ?」
とまた悩む。
「そうだ!お兄ちゃんに似合うかどうか見てもらおう」
しばらく悩んでからそう決めて、部屋を出る。
もしかしたら穿いたことがないから似合ってないって思っているだけなのかもしれないし、だからお兄ちゃんに見てもらって変じゃなかったら明日はこれで学校に行こう。
そう決めて向かいの部屋のドアをノックする。
「お兄ちゃん、ちょっといい?」
「いいよ」
返事を聞いてドアを開ける。
「どうした……えっ?君子さぁ、こんな時間に何で制服なんか着ているんだ?」
後は寝るだけって言う遅い時間に制服姿になっている私にお兄ちゃんはビックリしている。
「うん。お兄ちゃん、あの……ね、これって似合うかなぁ?」
制服姿のまま足元を指差して聞いてみる。
お兄ちゃんは指先を目で追ってからちょっと固まっている。
「……やっぱり変かなぁ?」
お兄ちゃんはまだ固まっている。
「お兄ちゃん?」
どうしちゃったのかなぁ?と聞いてみる。
「うん、あのさぁ……」
ようやくお兄ちゃんが口を開いてくれた。
「はっきり言って、似合ってない」
散々固まったお兄ちゃんの口からははっきりダメの言葉が。
「やっぱり……」
ため息一つついた私にお兄ちゃんが続ける。
「やっぱりもなにも、だいたい君子自身似合ってないって思って穿いているんだろう?」
「えーっ、どうして分かっちゃうの?」
ずばり言われてちょっとビックリする。
「分かるに決まっているじゃないか。似合ってないって思っているからこんな夜遅くにわざわざ制服に着替えて聞きに来たんだろ?似合っているって思っていれば聞きに来ないだろ?」
「あ、そうかぁ」
確かにそうだ。
今までどんなお洋服を買ったって、こんな風にお兄ちゃんの部屋に行ったことなかったし、似合わないって返事をして欲しいからわざわざ制服姿で行こうと思ったのだろうなぁと納得する。
「まぁ今度の高校の女の子はルーズソックスが普通みたいだけど、無理に合わせなくたっていいんじゃないか?」
「うん、そうだよね」
お兄ちゃんのアドヴァイスに素直に頷く。
「ありがとうお兄ちゃん、それじゃあおやすみ」
「うん、おやすみ」
今まで悩んでいたのがウソのようにすっきりした気持ちになって元気に自分の部屋に戻った。
「準備できたし、そろそろ出かけようかな」
 翌日の朝、学校に行く準備が出来た私は鏡の中の自分に向かってつぶやく。
制服姿の足元はいつもの白の短いソックス。
 色々悩んだけど、やっぱり私はこっちのほうが似合っていると思うし。
「あ、やっぱりこっちのほうが歩きやすいなぁ」
カバンを持ってパタパタと部屋を出ても足にまとわりつく感じがないので安心する。
「お友達には後で折角選んでくれたのにごめんねって謝っておこう」
そう決めながら階段を元気良く駆け下りた。
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権藤ゆーき / 2006(p) Lovetale vox