権藤ゆーきのストーリー ◇ 2006年クリスマスSS
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CARNIVAL DAY
 僕は言葉もなく立ち尽くしていた。
しばらく立ち尽くした後、つぶやくような声がやっと出る。
「摩央姉ちゃん、やっぱり無理だよ……」
力弱く送った視線の先にあるのは想像をはるかに超える金額が記載されている値札がついたカニの数々。
「一番安い『かにすきファミリーセット』でも3500円かぁ。といって足2本なんて売ってないし」
「これ買っちゃうとプレゼントが買えなくなっちゃうし」
「困ったなぁ」
店員さんの視線を感じながらも諦めきれずにくよくよと考え続ける。
「やっぱり、素直にギブアップしようかな?」
半分心に決めながら残り半分は「何とかならないかなぁ?」の気持ちがまだ残っているのを感じる。
くよくよと考えながら明日行われるイベントの事、それを誘ってくれた大切な彼女のこと、そしてそのときに彼女からお願いされた約束の事を考える。
「え?クリスマスパーティー?」
 摩央姉ちゃんとのデートを楽しんでいた時のこと。
そのお誘いは突然だった。
「そ、私のうちにみんな集まって、ホームパーティーをするの」
お気に入りの最新曲を口ずさむように摩央姉ちゃんが答える。
「さつきでしょ、ひろみでしょ、後はゆみこが来るの」
摩央姉ちゃんの友達の名前が次々と出てくる。
「それって女の子ばっかりだけど、僕も参加しちゃっていいの?」
「もっちろんよぅ!」
 疑問を口にした僕に力強い言葉が返ってくる。
「あなたの事は皆も知っているから平気よ。ホラ、二人でダブルクリームピーチメロンサンド食べたじゃない。その時一緒にいたメンバーよ」
「そういえば、そうだよね」
まだ摩央姉ちゃんと正式に付き合いだす前に『百一匹のこぶた』というお店で一緒に食べたものすごい甘さのサンドイッチと、僕たちのことを散々冷やかしてくれた摩央姉ちゃん
の友達を思い出す。
「あの時のサンドイッチ、甘かったよね」
急にあの時の甘さが口の中に広がってきたようでちょっと口元を押さえてしまう。
「ふふ、男の子にはダブルクリームピーチメロンサンドは大変だったかもね。でね、パーティーに参加するには条件があるんだけど」
 口元を押さえていた僕は摩央姉ちゃんの言葉にはっとなる。
「条件?」
「そ、それはね」
「一人一品パーティーにご馳走を作って持ってくることよ」
摩央姉ちゃんが人差し指を口元にあてながら説明してくれる。
「ご馳走?」
思わず鸚鵡返しになる僕に摩央姉ちゃんが続ける。
「ケーキはさつきでしょ、チキンはひろみでしょ、そしてゆみこはサラダを作ってくるってわけ」
「へぇ〜っ……あれ?」
摩央姉ちゃんの友達が作ってくるっていうご馳走を思い浮かべながらあることに気付く。
「ねぇ、摩央姉ちゃんは?」
「ふふーん、私は得意のビーフカレーよ」
「あ、やったぁ!」
摩央姉ちゃんの作るカレーは細かく刻んだ玉ねぎをじっくり炒める所から始める本格的なもので、付き合いだしてから何度かご馳走になっているのだけれど、その度にお腹が痛くなるくらいまでお替りしてしまう超絶品。
「楽しみだなぁ、摩央姉ちゃんのビーフカレー」
僕好みに少し辛めに仕上げてくれる味を思い出す。
「任せておいてよ!前の日から念入りに準備しちゃうんだから」
料理をほめられた摩央姉ちゃんがニコニコ笑顔になる。
「……で、あなたには何を作って来てもらおうかなぁ?」
想像だけでお腹一杯になっている僕に現実が突きつけられる。
「やっぱり、作らないとダメ?」
「ダメよ」
ニコニコ笑顔のまま、NGの返事。
「……どう考えても皆が満足するような料理なんて作れないよ。ジュース差し入れとかじゃダメ?」
しばし考えてみてもどうにもならないよな、と恐る恐る提案してみる。
「う〜ん、皆も作ってくるし、簡単なものでもいいから作ってよぅ」
再び人差し指を口元に当てる仕草。
この仕草に弱いんだよなぁ、と頭を掻く。
「じゃあ、チャレンジしてみるよ。何かリクエストある?」
そう聞いたのがまずかった。
「リクエスト?それはもちろんカニよ、カニ」
間髪を入れない摩央姉ちゃんの答え。
「カニを茹でるだけなら簡単だし、私も大好きだし。うん、最高ね」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
両手を合わせながら一人で盛り上がっている摩央姉ちゃんをあわてて制する。
「カニなんて高いもの、そんなの買えないよ」
「あら残念」
夢から覚めたような表情になる摩央姉ちゃん。
「でもカニがいいわ。何とかして〜」
「う〜ん」
 そんな会話があって、半ば強引な摩央姉ちゃんのお願いを断りきれなかった僕はデパートの食料品売り場に来て想像以上の値段をつけているカニを見て立ち尽くしてしまったのだ。
一応妥協案として「私が食べられる分だけあればいいわよ」とか「最悪はしょうがないわね」という言葉は摩央姉ちゃんからもらっているのだけれど、カニ大好きな摩央姉ちゃん
の喜ぶ顔も見たいしなぁ。
「でも、現実には買えないし。どうしようかなぁ」
諦めきれずに食料品売り場のカニのコーナーをうろうろする。
でも、いくら考えたってお金が増えるわけでも、カニが安くなるわけでもないし。
「摩央姉ちゃんゴメン」
しばらく悩んだ僕はギブアップすることを決めてカニのコーナーを後にする。
「代わりにお菓子でも買っていこう」
甘いお菓子だったら皆喜んでくれるだろうと考えて食品コーナーからスナックコーナーへ移動しようと歩き出した時。
「あれ?これって……」
あるものが目に入った僕は立ち止まってそれを手にとって見る。
「やってみようかな?」
手にしたものを見ながらしばらく考えてさっきのギブアップを撤回する。
摩央姉ちゃんが喜んでくれるかどうかちょっと不安だけど、やってみよう!
そう決めて僕は手にしたものを買い物カゴに入れ始めた。
「いらっしゃい、遅かったわね。皆お待ちかねよ」
 クリスマスパーティーの日。
思ったより準備に時間がかかってしまった僕はどうやら最後になってしまったようだ。
「準備にちょっと時間がかかっちゃって」
大事に抱えてきた鍋を掲げると摩央姉ちゃんの鼻がピクピクと反応する。
「むむ、そのにおいはもしかして!」
ニコニコ笑顔になりながら摩央姉ちゃんが両手を握り締める。
「本当にカニ持ってきてくれたんだぁ!やったぁ!」
「う……いや……本当は……まぁあがってからのお楽しみってことで」
あんまりの喜びように本当のことが言えなくなってしまった僕はごにょごにょと口ごもってしまう。
「ん?まぁいいから。さぁ上がって」
摩央姉ちゃんに促されながら皆の待つ部屋に向かう。
「あ、きたきた」
「摩央だけカレシ付かぁ、いいなぁ」
「来年は私もカレシと来たいなぁ」
摩央姉ちゃんの友達が歓迎とも、冷やかしともとれる言葉を口々に発する。
「ふふーん、じゃあはじめましょう!」
摩央姉ちゃんの発声でパーティーの幕開け。
「さ、早速あなたの料理をいただくわね」
上機嫌の摩央姉ちゃんが待ちきれないといった感じで僕が持ってきた鍋に手を伸ばす。
「カニさんこんにちわ……あれ?」
勢い良く鍋のふたを取った摩央姉ちゃんの動きが止まる。
「これって、もしかして……」
「ごめん、摩央姉ちゃん」
「……カニカマ、よねぇ?」
 そう、僕が作ってきたのはあの時スーパーで手に取ったカニカマを鍋一杯に広げて水炊きにしたもの。
においだけはカニと一緒なので摩央姉ちゃんも勘違いしてしまったのだ。
「ゴメンね。だますつもりはなかったんだけど……本物のカニは高くて買えなかったし……でも、摩央姉ちゃんには喜んでもらいたかったし……それで……」
「おいしい!」
「え?」
僕の言い訳は摩央姉ちゃんの明るい声にさえぎられる。
「え?じゃないわよ。とってもおいしいわよこれ!あなたも食べてみてよ」
そう言って僕にもカニカマをよそってくれる。
「塩味が効いていてカニを食べているのと変わりないわよ」
そう言われながら食べてみると我ながらそんな気持ちになってくる。
「嬉しいなぁ、カニなんて買えないからってギブアップしてくると思っていたらこんな工夫をしてくれるなんて。感激よ」
摩央姉ちゃんの笑顔にホッとして気持ちが暖かくなってくるのを感じる。
「良かった、摩央姉ちゃんに喜んでもらえて僕も嬉しいよ」
そう言って摩央姉ちゃんをじっと見る。
摩央姉ちゃんも見つめ返してくる。
「外は寒いって言うのに、ここだけは真夏みたいに暑いわね」
「あーあ、やっぱりカレシ付は反対すればよかったなぁ」
「私たちも食べたいなぁ、カニカマ鍋」
「わっ!」
 見つめ合っていた僕たちは摩央姉ちゃんの友達がじぃっと見ているのに気付いてあわてて離れる。
「ごめーん、今よそうわね」
顔を赤らめた摩央姉ちゃんがあわててお椀にカニカマをよそいだす。
僕も顔が熱くなってきているのを感じながらお椀を皆に回す。
「じゃあ改めまして」
再び摩央姉ちゃんが宣言すると皆すごい勢いでおしゃべりを開始する。
とてもじゃないけど僕が入り込める隙間はない。
僕はおしゃべりに花を咲かせている摩央姉ちゃんの横顔を眺めながら作ってきたカニカマを口に運ぶ。
「バイトして、今度は本物のカニをご馳走してあげようっと」
カニカマを味わいながら摩央姉ちゃんの横顔にそう誓った。
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権藤ゆーき / 2006(p) Lovetale vox