夢を見ていた。
それもとびっきり楽しくって幸せな夢……だった気がする。
どんな夢だったか覚えていないなぁ?と思いながら目を覚ますと、窓から明るい日差しが飛び込んできているのがわかる。
「晴れてる、やったぁ!」
小さくガッツポーズしながらベッドから起き上がると同時にさわやかなアラーム音が起きる予定の時間を知らせてくれる。
「ばっちり起きているんだから!大丈夫よ」
歌うように時計に伝えながらアラームのスイッチを切って部屋を飛び出す。
「はぁーっ、すっきりしたぁ!」
まずは熱めのシャワーで身体をしゃきっと起こしてから、コンタクトを入れる。
「よし、上手くまとまったわ」
お次はドライヤーを念入りに使いながら髪の手入れ。
丁寧にブラッシングして、ツーテールにまとめた髪をお気に入りのゴムでキュッ!と結ぶ。
「仕上げの前に……朝ごはんね!」
パタパタと音を立ててリビングルームへ。
「うわぁ!」
テーブルの上に用意してあった朝ごはんを見て思わず声を上げる。
だって、用意してあったのはカリカリに焼いてあるベーコンにスクランブルエッグとオニオンサラダ。
トーストにブルーベリーのジャム。
それに、お鍋で温まっているコーンポタージュだったから。
もしかしたら、お母さん今日がデートなの知っていて、特別メニューにしてくれたのかなぁ?
そう思っちゃうくらい全部大好きなメニュー。
「いっただきまーす!」
元気な声を出すとますます美味しく感じる。
朝ごはんを食べ終わって、時計を見ると8時50分。
「余裕余裕!今日くらい早起きしなくちゃね」
ウキウキしながら歯を磨いて、リップクリームを丁寧に塗る。
「今日はいつものコロンじゃなくて……こっちね」
昨日買ってきたばかりの、憧れの女優さんがつけているって評判の香水をシュッと一吹き。
「高かっただけのことはあったわ、良い香り!」
迷いに迷って買った香水が気に入ったことでますます気分が良くなる。
昨日の内に用意しておいたベロアのワンピースに着替えて準備完了。
マフラーとコートを小脇に抱えて鏡の前で最終チェック。
「うん、バッチリね!」
あれこれ悩んで決めたコーディネートが決まっているのを確認、最後に人差し指でほっぺをつつきながら笑顔のチェック。
「笑顔オッケー!準備も出来たし、そろそろ出かけようかな」
9時40分を指している時計にちょうどいいわとつぶやきながら部屋を出る。
マフラーとコートでポカポカ暖かくなりながら下駄箱を開けてハイカットのレザースニーカーを取り出すと紐をキュッ!と結んで「行ってきまーす!」と元気な声で飛び出す。
ウキウキしながらいつもの角を曲がり、商店街に差し掛かるとここ一月位ずうっと奏でられている音楽が出迎えてくれる。
「今月入ってからずっとクリスマスソングばっかりよねぇ。でもまぁ明日を過ぎちゃったらまた当分聞けなくなるけど」
すっかり耳についた音楽につぶやく。
そう、今日はクリスマス・イヴ。
そして、大好きな彼とデートの約束の日。
「今日デートの約束が出来て良かったわぁ。イヴにデートなんてロマンチックでもう最高!」
ウキウキした気持ちがますます浮き立ってくる感じがする。
今年になって少しずつおしゃべりするようになった、違うクラスの男の子。
夏が過ぎて、秋になって……時間が過ぎていくうちにだんだんと彼のことが仲の良い友達から気になる存在に変化してきて。
彼の気持ちはどうなのかなぁ?と思っていたらおんなじだったみたいで、ある秋の日の夕暮れに、彼から告白されたの。
もっちろん返事はイエス!
想いが通じ合って恋人同士になることが出来たの。
恋人同士になってからまだそんなに時間がたったわけではないのだけれど、二人とも部活がない日は一緒に寄り道しながら帰ったり、日曜日にはデートしたりしながら「大好き!」の気持ちを少しずつ強いものにしていって。
「今度のデートはイヴの日にしない?」
次のデートどうしようか?って考えていたときに彼からしてくれた素敵な提案。
「イヴの日にデート?いいわねぇ!ロマンチックで最高ね」
もちろん大賛成でイヴのデートが決まったって訳。
待ち合わせ場所まであと少し。
「去年のイヴは最悪だったからね」
歩きながら去年のことを思い出してちょっと苦笑いする。
カレシのいなかった去年のイヴ。
結局親友の梢と翼子の三人で一日遊んだんだけど、これがハプニング続きで。
1000円つぎ込んでもぬいぐるみが取れないUFOキャッチャーに梢は切れちゃうし。
翼子は翼子でランチのピザ食べ放題で食べ過ぎちゃってしばらくトイレから出てこなくなっちゃうし。
「やっぱり彼とロマンチックなデートが一番よね!」
歩きながらそんなことを考えていた。
「やっほ……あれ?まだ来ていないや」
待ち合わせ時間ピッタリに到着して、彼に元気な声をかけようと思った私はお目当てがいないことに気づく。
「まーったく、何が『僕はいつも20分前には到着して待っているのに、紺野さんは20分遅れで来るんだからなぁ』よ!全然来てないじゃない」傍らの小石をコツン!と蹴っ飛ばしながらまだ来ていない彼に向かって文句を言ってみる。
「まぁ、私がちょぴっと遅れてくるから、合わせようとしたのかも。たまには『えっ、紺野さんが先に来ている!』ってビックリさせるのも良いかも」そう考え直して膨らませたほっぺたを元に戻す。
ふっと空を見上げるとさっきまでの晴れ空がウソのようにどんよりとした雲が広がってきていて、とっても寒い。
「マフラーまでしてきて正解ね。曇ってきちゃったのは残念だけれど、雪降るかもしれないってニュースでやっていたし、まぁ雪のイヴもロマンティックでいいかも」
そんなことを考えながら彼を待つ。
「んもう、いっくらいつも待たされていたからって遅〜い!」
時計の針はそろそろ10分が過ぎようとしている。
「可愛い彼女をこんな寒い中で待たせるなんて、お詫びはホットチョコレートおごりね」
時計の針はそろそろ20分が経過しようとしている。
「でも……どうしちゃったのかしら?」
今までのデートで一度も時間に遅れてきたことがない、というかいつも先に来て待っていてくれている彼が約束の時間から30分近くたってもまだ来ないことに不安な声を出してしまう。
「んもう、だから携帯持ってよ!っていつも言っているのに」
縛られるのは嫌だからって言う彼は携帯電話を持っていないので「今どこにいるの?」って確かめることも出来ない。
「……雪、降ってきちゃった……」
さっきまでの浮き立った気持ちが信じられない位サミシイ気持ちになってつぶやく。
ヒラヒラと舞ってきた雪が髪に肩にまとわりついてきて、寒さに思わず身体を震わせてしまう。
「きっと君は来ない」なんて余計な曲が耳に入ってくるし。
涙が出てきそうになって、キュッと唇をかむ。
「私、彼を怒らすようなことでもしちゃったのかしら……?」
もしかしたら……そんなことを考えながらコートにまとわりついている雪を払ったときだった。
「えっ、紺野さんが先に来ている!」
さっき想像したとおりの言葉が聞こえて振り向くと、そこには待ちに待った彼の姿が。
「ばかぁ!」
彼が来てくれたって言う安心感と「どうしてこんなに遅いの?」って言う気持ちが交じり合って思わず声を張り上げてしまう。
「え?え?一体どうしちゃったんだよ?」
彼がビックリした声を出す。
「いつも待ち合わせに遅れたことがないあなたが30分過ぎても来ないから、どうしちゃったのかって、もぅ心配したんだからね!」
ビックリしたまま言葉の出ない彼に向かってお構いなくどんどん言葉をぶつける。
「どうしてイヴのデートに限って遅刻してくるのよ!」
まくし立てるようにそこまで言った時だった。
「ねぇ……紺野さんもしかして待ち合わせ時間勘違いしてない?」
彼があきれたような表情になってポツリと一言。
「えっ?」
意表の反応に言葉が止まる。
「何言っているのよ、10時待ち合わせだったでしょう?」
もしかして……と、さっきより弱気な言葉を出してみる。
「やっぱり、ほら」
彼がそう言うと手帳を開いて見せてくれる。
「あっ!」
そこには「イヴのデート!待ち合わせ11時絶対遅れちゃだめよ!」って蛍光ペンで私が書いた大きな字が踊っている。
やっちゃたぁ……私ったら1時間待ち合わせ時間を勘違いしていたんだ!
道理で彼が来ないはずよね。
「えと……あの……その……待ち合わせって11時だったっけ?」
時間を勘違いしていただけじゃなく、勝手に心配して、勝手に彼に怒りをぶつけてしまったことに顔がかぁっと火照ってくるのを感じながらわざとらしく問いかける。
「そうだよ、っていうか今までのデートもいつも11時待ち合わせだったと思うけど」そういわれてみればそうだった。
でも良かったぁ!彼は遅れて来た訳でも私が怒らせちゃった訳でもなかったのだから。
「ゴメンね」
舌をペロリって出してあやまると彼がペシって額を軽く叩いて「いいっていいって、気にしてないから」と許してくれる。
「それより、デート開始しようよ。紺野さんが早く来てくれたからその分長時間デートできるしさ」
そう言って彼が私の手を握る。
「うんっ!」
嬉しくってそのまま彼の腕の中に飛び込んだその時だった。
「あ……」
今日見た夢、思い出しちゃった。
こうやって彼と二人腕を組んで仲良くデートに行く夢だったの。
そうかぁ、そうだったわねと一人うんうんと頷く。
「うん?どうしたの?」
彼の優しい問いかけに「何でもなーい、行きましょ」と笑顔で答える。
「そうだね」
彼が答えて歩き出そうとするとさっきより少しだけ多く雪が舞ってくるのを感じる。
でも、髪やコートにまとわりついてきても全然寒く感じないし、ふわふわと舞う雪が柔らかく見えて素敵な気持ちになってくる。
「ロマンティックなデートありがとう!」
こんな素敵なホワイトクリスマスを演出してくれた神様と、隣にいてくれる大好きな彼にそっとお礼の言葉をつぶやくと組んだ腕の温かさを感じながら二人で柔らかい雪の中を歩き始めた。