権藤ゆーきのストーリー
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Set up my longing
 始めは遠くにあってそこから放たれるまばゆい光に目を細めるだけだった。
たかねさん……その名前の通り『高嶺の花』の彼女。
「手を触れてはいけない遠い存在」
始めてみた時感じたあこがれの気持と共に思ったこと。
私みたいな者が立ち入ってはいけないという感情。
ずっとそれを感じていたのだ。
教室でクラスメイトと談笑している時の笑顔、温室で花に水を上げているときの優しい表情、お昼の放送で聞かせてくれるさわやかな声……。
その時その時にたかねさんを感じることが出来る、それだけで私は充分満足していたのだ。
「蒼月たかねファンクラブ会長」
そんな私が立ち上げたファンクラブ。
会員は私一人……もちろん、たかねさん公認の物ではない。
しかし、たかねさんにすてきな王子様が現れるまで、下賎な輩からたかねさんを守る。
それが私に与えられた使命なのだと感じたのだ。
先日も事故を装ってあろうことかたかねさんの胸部に手を触れた失礼な輩を厳重注意したところだ。
陰に日向にたかねさんを守る。
そんな毎日を過ごしていたのだ。
 そんなある日の放課後。
帰ろうとしていた私は大粒の雨が地面をたたいていることに気がついた。
私としたことが本日に限って傘を持参していなかったのだ。
しばらく降り続く雨を眺めていたのだが、一向に雨足は弱まる気配を見せない。
仕方がない、走って帰ろう。
そう決めて身構えた時だった。
「あら?傘を持っていないのかしら?」
そ……その天使が歌っているような美しい声は!
恐る恐る視線を向ける。
やっぱり!
そう、そこにいたのは僕の天使、たかねさん。
「今日は午後から雨が降るって朝のニュースで言っていたわ」
にこやかに話してくれるたかねさん。
「そそそ……そうだったのですか。知りませんでした」
ああ、たかねさんがこんな私に声をかけてくれる。
何て幸せなのだ。
「傘がなくて困っているのでしょう?はい」
幸せに包まれていた私は、そんな声とともに差し出されたピンク色の傘を見てはっと我に帰る。
「え……この傘?私に?」
「うん。私教室に折り畳み傘がもう一本あるの。色が恥ずかしいかもしれないけど、もし良かったらどうぞ」
「いいい……いいのですか?」
思わず声が上ずってしまう。
「うんっ!どうぞ」
笑顔と一緒に再度差し出されるピンクの傘。
「あ……ありがとうございます」
手にした傘はたかねさんの優しい暖かさが感じられるようで、頬が思わず熱くなってしまう。
「それじゃあ、私折り畳み傘取りに教室戻ります。さようなら」
ニコリと笑顔を浮かべると私の天使はパタパタと軽やかな靴音と一緒に走っていってしまった。
 一人残された私はそっと傘を開く。
暗い雨空にピンクの綺麗な花が咲き、ふうわりと甘酸っぱいような空気が私を包んでくれるような気がする。
たかねさん、ああ、なんて優しいのだ。
感謝しながら弱まらない雨足の中歩き出す。
傘を差していても地面を叩きつける雨粒がズボンにシミをつけてゆく。
それでも私は幸せだった。
私の心にはこの暗い雨空の下で可憐に咲いた傘のピンク色がそのまま映っているかのようであった。
「よし、これで大丈夫」
その日の夜遅く、私はようやく終わった作業に満足の笑みを浮かべる。
家に帰り着いた後、私は大急ぎで傘を乾かし始めた。
風呂場を占拠して、しばらく自然に乾かしておいて。
そして水分が残らないようドライヤーを使って。
さらに、しわ一つ出ないよう慎重に慎重を重ねてたたむ。
自分で言うのも何だが新品とほぼ同じような状態に仕上がったつもりである。
そのピンクの傘を前にもう一度考える。
作業をしながら考えに考えていることだ。
「後悔しないか?このままでも良いのでは?」
同じ言葉がぐるぐると頭の中を回る。
そう、それは私の想いをたかねさんに伝えるということ。
今のまま、あこがれの対象だけでなく、私の想いを伝えたい。
ピンクの傘に包まれながらそう考えたのだ。
そして、決心する。
明日、傘を返しながら想いを口にしよう、と。
そう決めた私はベッドにもぐりこんだが、全く眠りにつくことが出来ずに朝を迎えることとなった。
 迎えた翌日の放課後。
私はたかねさんを探して校内を歩き回っていた。
もちろん、ピンクの傘は大切に握り締めている。
一睡も出来ないまま登校した私はたかねさんに傘を返す……そして想いを口にするタイミングをずっと考えていた。
休み時間は友達と一緒に談笑しているし、お昼休みはそのさわやかな声を全校に届けるために放送部に行ってしまう。
結局チャンスは放課後しかなかったのだ。
しかし、たかねさんの姿はなかなか見つけることが出来なかった。
帰ってしまったのであろうか?
そんな不安な気持になりながら覗いた図書室に可憐な花が咲いていた。
そう、そこに咲いているのは読書に勤しんでいるたかねさんの姿。
落ち着け……落ち着くのだ。
咳払いを一つしてからたかねさんに声をかける。
「あら、どうしたのかしら?」
視線を本から私のほうに移したたかねさんが微笑む。
「あ……あの、これ、ありがとうございました」
ピンクの傘に感謝をこめて差し出す。
「本当に助かりました」
「ううん、困っていたみたいだったから。喜んでもらえたのなら嬉しいわ」
少し照れたようにはにかむたかねさん。
さあ、伝えよう!私の気持を。
「あの……」
意を決し、口を開いた時だった。
Illustrated by Pingpong TAMADA for Tornado Punchers 21
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「たかねちゃん、お待たせ」
私の背中越しに声がぶつかる。
振り向くと以前たかねさんの胸部に触れた輩が息を切らせながら立っている。
「遅くなっちゃってゴメン」
彼の言葉にううん……と首を振るたかねさん。
「本を読んでいたから、全然気にならなかったわ」
「そか、じゃあ行こう」
「うんっ!」
嬉しそうに立ち上がりながら「そういえば、何か言いかけてなかったかしら?」
とたかねさんが私の方に視線を向けてくる。
「い、いえ、なんでもないのです。傘ありがとうございました」
それだけ言うと私は二人の方を見ないように目を伏せて図書室から離れた。
 私の視界には楽しそうに下校するたかねさん達の姿が映っている。
目で追いながらため息を一つ。 
口に出す寸前で閉ざされた言葉。
たかねさんにふさわしい王子様が見つかるまでと思いながらも突きつけられた現実。
「せつないというのはこんな気持なのだな」
校門で二人を目で見送りながらため息をつき続ける。
しばらくそうやってぼーっと立っていた私はポツポツと頬に当たる冷たいものにハッとなる。
梅雨空がまたも雨を運んできたのだ。
今日も傘を持ってきていないし、ましてや私に傘を差し出してくれる天使はもういない。
「仕方がない、走って帰ろう」
そう決めてそのまま走り出す。
「明日、彼には注意をしなくてはいけないな」
走りながらファンクラブ会長としての責務を果たすべくそんなことを考え始めていた。
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権藤ゆーき / 2005(p) Lovetale vox