頬に、ひんやりと心地良い空気を感じる。
そのさわやかさをしばし味わってからゆっくりと目を開ける。
「おはよう、さわやかな良い天気よ」
開け放たれた窓を背に璃未が笑顔を見せる。
「おはよう」
ベッドから起き上がりながらオレも笑顔を返す。
微笑む璃未の肩越しにさわやかな秋晴れの空が広がっているのが見える。
「本当だ、良い天気だね」
「でしょう!お休みの日がこんなに良いお天気だなんて、なんだか嬉しくなっちゃうわ」
オレの大好きな笑顔を満面にたたえながら璃未が上機嫌で声を上げる。
「よーし、じゃあお出掛けしようよ。どこに行きたい?」
そんな璃未の笑顔が嬉しくて一日ゴロゴロするつもりだった休養日予定の変更を申し出る。
「あら、ゆっくりしなくていいの?そうしたら……そうねぇ、森林公園に行かない?」
予定変更を喜びながらも、オレがゆっくり出来そうな場所を選んでくれたようだ。
「サンキュー。あそこだったら璃未がスケッチしている間にひと寝入り出来るし大歓迎だよ。レジャーシート積んでいこうぜ」
気を遣ってくれる璃未に感謝しながら賛同する。
「いいわね。久し振りにキャンバス持って行くわ!」
こうして、今日の行き先が決定する。
「じゃあ、ブレックファーストにしようぜ。しばしお待ちを」
「うん、じゃあお願いね」
そんな会話の後、オレはキッチンに向かい冷蔵庫を開ける。
ハム、ベーコン、卵、白菜にトマト……。
献立を頭に浮かべながらそれらを取り出す。
璃未はラックを覗き込みながらあれこれ悩んで朝のBGMをチョイス、やがてコンポからさわやかな曲が流れ出す。
これが、二人で創る休日の朝のカタチ。
結婚するときに交わした約束のカタチ。
「え?それが良いの?」
思っても見ない言葉に少しだけビックリする。
「うん」
ニコニコ笑顔の璃未が頷く。
ゴールインの決意を固めたオレ達。
結婚式の準備やらなにやらがやっと形になった頃のこと。
オレは璃未に一つ提案をしたのだ。
「結婚して、新しい生活になった時にオレも家のことを何か手伝おうと思うんだ。何をしたら良い?」と。
璃未にはこれまでいろいろ面倒を見てもらった。
高校を出てからずっと一人暮らしのオレ。
そんなオレを支えてくれたのが家事万能の璃未だったのだ。
栄養たっぷりの手作りの料理。
ふわりとした清潔さを与えてくれる洗濯物。
物を出すのがもったいなくなるような気持ちにさせられるほど綺麗に整頓された部屋。
デートの合間や部屋に来てくれた時……みんな璃未がテキパキとこなしてくれたことだ。
おかげさまで病気らしい病気もすることなく生活することが出来、無事に結婚までこぎつける事が出来たのだ。
だから、そんなオレも結婚したら一つ位手伝いをして、璃未を助けて上げられたら良いかなぁと考えたのだ。
そんな気持ちをぶつけた時。
返ってきた答えはまったく意表をつくものだったのだ。
「う〜ん、そうねぇ……だったら、休日の時の朝ごはんを作るのは、あなたにお願いしちゃおうかしら」
首をひねりひねり考えながら璃未が出した答えがそれだったのだ。
考えても見なかった提案にしばしビックリする。
なぜかって言うと全ての家事において苦手と呼べるものが一つもない中でも璃未が最も得意としているのが料理だったからだ。
てっきり「ふとん干し」とか「風呂掃除」なんてものを想像していたオレ。
そんなオレにニコニコ笑顔のまま璃未が理由を教えてくれる。
「だって、あの時のあなたの料理、とっても美味しかったから」
「え……あれが?」
その理由にオレは二度ビックリすることになるのであった。
「来てくれたんだ……ありがとう」
璃未が消え入りそうな声を出して起き上がろうとするので、あわてて止める。
「寝てたままでいいから。少しは良くなった?」
オレの問いかけにベッドの中の璃未が力なく頷く。
大学に無事合格してしばらくたったある日。
風邪をこじらせて寝込んでいると聞いたオレは璃未の家にかけつけた。
「何か食べたか?」
とりあえずコンビニで買ってきた果汁100%のオレンジジュースを差し出しながら聞くと首が振られる。
どうやら丸一日何も食べていないみたいだ。
「お父さんは仕事でいないし……」
ジュースを一口飲んだ璃未がため息を一つつく。
「よし、じゃあオレが何か作ってやるよ」
そう言って台所に立ったのは良いのだけれど。
「さて、どうしたものか?」
うーむ、とうなってみる。
なぜなら、一人暮らしをはじめたといっても料理なんてほとんど作ったことがないオレに何が作れるのだろうか?としばらく悩む。
とは言っても何か作らないことには始まらない。
「よし、やってみるか」
自分に気合を入れるとまずは冷蔵庫とか色々覗き込んで食材をチェック。
とりあえずインスタントラーメンがあったのでそれをベースにしようと決める。
「インスタントラーメンなら色々煮込めるし、暖かいからいいだろう」
それだけ考えて料理を開始する。
悪戦苦闘してやっと出来上がった料理。
一目見た璃未がびっくりしたような表情を浮かべる。
無理もないなとため息をつく。
何故ならそこにあるのはラーメンにありったけの野菜と卵と肉、さらにはご飯までぶち込んだラーメンというか、雑炊というか何とも言えない物になっていたから。
それでも璃未はレンゲを使って美味しそうに食べてくれた。
「あれだったとはねぇ……」
思っても見なかった理由にそれだけをつぶやくと、璃未がコクリとうなずく。
「うん、だってね……あの時は一人ぼっちで、とっても不安で、どうしようかとそればっかり考えて泣きそうになっていたの。そんな時にあなたが来てくれて、暖かいものを作ってくれたので身体も気持ちもすごく暖かくなれたの。『あなたのことが大好き』って感謝の気持ちとともに改めてそう思ったきっかけだったの」
そんな璃未がとても愛おしく、改めてこの人を選んでよかったと強く強く感じた……。
「あら?どうしたの?」
音楽に耳を傾けていた璃未がオレの視線を感じて不思議そうな表情を浮かべる。
「うん……用意が出来たのと、後きっかけを思い出していたんだ」
「そうなんだ、懐かしいお話ね」
オレの言葉に笑顔を浮かべながら璃未がテーブルにつく。
今日のメニューはハムエッグとトースト、ベーコンと白菜のスープ。
ハムエッグにはトマトスライスを添えてある。
「うわぁ、美味しそうね!」
「あの時の雑炊より見た目も美味しそうになったろう?」
結婚してから週末ごとの朝食作り。
初めは簡単なものしか作れなかったけれども、今では大分オレの腕もかなり上がったと思
い、そう声をかけてみる。
「う〜ん、あれは特別だから……でもとっても美味しいわ」
スープをゆっくり味わいながら璃未がほめてくれる。
「サンキュー。あ、コーヒーが出来上がったな」
「あ、私がやるわ」
そう言って璃未が立ち上がると、コーヒーの香りが漂いだす。
穏やかな休日の朝、穏やかな幸せにオレは感謝しながら璃未が入れてくれた甘い甘いブ
ラックコーヒーに口をつけた。