キライだったのはストレート・ヘア。
だって、ツーテールをなびかせている方が私らしいと思っていたから。
キライだったのはメガネルック。
だって、メガネをかけていたら「かわいくなーい!」って思っていたから。
鏡に映るのはツーテールに髪をまとめてコンタクトを入れた私。
「うん、かわいいわよ」
微笑みかけると鏡の中の私も微笑む。
「よーっし、今日も一日頑張るぞ!」
勢いよく部屋を飛び出す私の一日のスタート。
「すっ……ぐすっ……」
私は泣きつづけていた。
初めて会ったときからずぅっと気になっていた同級生。
学校で会えた時には精一杯の笑顔で話し掛けて。
ちょぴっと甘えながら一緒に帰ったり、プレゼントあげたり。
この前の日曜日には彼のお誘いで初めて二人でショッピング。
「私はあなたが好き。あなたも私が好きよね?」
告白する勇気がなくって言えなかった言葉。
でも、心は通じ合っていると思っていたんだ。
今日の放課後までは……。
「あーっ!信じらんなーい」
帰ろうとした私は大粒の雨がグラウンドをたたきつけているのに気が付いてぷぅっと頬を膨らます。
「カサ持ってるわけないじゃない。あんなに良いお天気だったんだからぁ!」
学校に行くのが楽しいくらい明るい晴れ空だったのが信じられないような雨にブウブウ文句を言ってみる
「あっ!ラッキー!!」
私の目に映ったのはカサを差して帰ろうとしている大好きな同級生の姿。
「やっほ……」
振りかけた手が途中で止まる。
視界に小さな影が入ったから。
そう、それは私のかけがえのない親友。
同級生がうれしそうに話し掛けると親友もまたうれしそうに返して自分のカサをたたみ、彼のカサの中に入る。
そのまま親友の肩を抱く同級生。
「え……うそ……」
ふらふらとしながら数歩だけ二人に近づく。
たちまち大粒の雨が私に襲い掛かり、ズブ濡れになってしまう。
でも、そのままの状態から足が動かない。
私の目からも大粒の涙が溢れ出す。
ぼぅっとした視界の先で幸せそうな二人の姿が見えなくなっていく。
「……どうして?」
私は一人肩を震わせながら何回もその言葉を口にし続けた。
「すっ……ぐすっ……」
泣きながら、そして「どうして?どうして?」の言葉だけをつぶやきながら雨に打たれて一人家に帰ると、ずぶ濡れになった制服のまま部屋の隅でひざを抱える。
「どうして、楽しそうに私とおしゃべりしてくれたの?」
「どうして、私のプレゼントをうれしそうに受け取ってくれたの?」
「どうして、この前ショッピングに誘ってくれたの?」
氷解できない思いがただただ「どうして?」の疑問になって口をつく。
ベッドサイドに大事に置いておいたイルカの置物を手にとる。
「どうして、私にこれを買ってくれたの?」
そう、それはこの前のショッピングで彼が買ってくれたもの。
「大切に、大切にしていたのに……」
新たな涙がポロポロこぼれる。
「どうして……どうしてあなたの隣に梢がいるの?」
幼稚園のときからずぅっと一緒だった大切な親友。
彼の話題になるとはにかんだような表情で聞いていてくれていた親友。
でも、彼の隣には彼女がいる……。
「どうして……?」
後から後から涙がポロポロポロポロこぼれ出す。
どれくらいになるか解らないくらいそうやって泣き続けていた。
「クシュン……グスッ……」
翌日。風邪を引いてしまった私は学校をお休みしてベッドの中ですごしていた。
なんてバカなんだろう、私。
ずぶ濡れのままずぅっと泣き続けていたんだから、風邪引くのも当然……。
「どうして……?」
でも、考えるのは彼のことばかり。
「グスッ……グスッ……クシュン!」
涙とくしゃみが同時にやってくる。
鼻をかみながらやっぱり私は泣き続けていた。
「ひ……どい顔」
夕方。ようやく起き上がれるようになった私は鏡を見てため息をつく。
泣き続けていた目は真っ赤で、とてもコンタクトを入れることが出来る状態じゃない。
自慢のツーテールは片方のゴムが取れてしまって髪はぼさぼさ。
涙がポロリと落ちる。
「こんなに泣き虫だったっけ?私」
大笑いして涙をこぼしたことはあったけれど、悲しくって涙をこぼすのは覚えていないくらいずっとずぅっと前。
「もう、いいかげん泣き止まなきゃ……」
引き出しを開けてずぅっと出番のなかったメガネを取り出す。
メガネをかけるのはキライ。
「なんか、かわいくなーい!」
初めてメガネをかけたときに鏡に映った姿を見たときに思ったから。
だから、ずうっとそのままにしていた黒ぶちの大きなまん丸メガネ。
「いいもん……今だったら……かわいくなくたって」
つぶやきながら久しぶりにメガネを掛けると改めて鏡を覗き込む。
「あれ……?」
鏡に映った姿は確かに今までの私とは違うイメージになっていた。
でも、思っていたほど「かわいくなーい!」って程じゃないし、そんな姿を見ているうちに不思議と落ち着いた気持ちになってきたことにビックリする。
そうなると気になるのは中途半端になってしまっているヘアスタイル。
「これ、取っちゃおう!」
片方だけ残されていたゴムも取って、髪の毛を下ろす。
「え……これって私?」
そこにいたのは今までと180度違った雰囲気を持つ自分。
「ちょっとした事でこんなにイメージが変わるんだぁ」
驚きながらも、昔からの友人に会えたようなうれしい気持ちもあることに気がつく。
「あのね、同級生に好きな人がいたの……」
髪の毛にブラシを入れながらずうっと泣き続けていたことをまるで信頼できる友人に打ち明けるように鏡の私に話し始める。
「……ってことで、見事に私はふられちゃったの」
長い長い打ち明け話が終わる。
鏡に映るのは今までとはイメージのまったく違う、でもさっきとは違って落ち着いた気持ちが表情に出ている私。
鏡の中の私に話し続けているうちにすっかり気持ちの整理をつけることが出来た。
そう、精一杯の笑顔のつもりだったけど彼には馴れ馴れしく見えたのかもしれない。
甘えたつもりだったけど彼には自己中で振り回してばっかりに見えたのかもしれない……って。
そうよね、梢は控えめでかわいらしい女の子だし、どの男の子にも自信を持って推薦できる自慢の親友なんだから彼が選ぶのも当然よね。
「うん!だからいつまで泣いていたってダメ!新しい私にならなきゃ!ネ!」
決心して鏡の私に笑いかけながらキュッとこぶしを握ってみせた。
「う〜ん、いいお天気!」
さんさんと照りつけるお日様に向かって伸びを一つする。
次の日、風邪はすっかり治っていたのだけれど「どうしてもやりたいこと」があってもう一日学校をお休みする。
「まずはここね!」
飛び込んだのはメガネ屋さん。
あの黒ぶちメガネでもよかったのだけれど、新しい私のデビュー記念ってことで。
あれこれ悩んで決めたのがべっ甲色したセルフレーム。
「よっし!つぎはここ!」
続いて美容院へ一直線。
おろした髪をさらさらのストレート・ヘアに整えてもらって。
それからピアノ教室の申し込みをして……。
「うん、これでオッケーね!」
部屋のべッドにべっ甲ぶちのメガネとピアノ教室のパンフレットを広げて、鏡に映るさらさらヘアーの私に話し掛ける。
そう、それは私を180度転換させてくれるアイテム達。
「ツーテールをなびかせているほうが私らしい」ってしなかったストレート・ヘア。
「なんか、かわいくなーい!」ってかけなかったメガネ。
「中学生になって、なんとなく」ってやめてしまったピアノ。
新しいスタート、新しい私になるためのアイテム達に微笑みかける。
「明日から新しい私、スタート!」
彼の姿がちょぴっと浮かぶときもあるけれど、もう涙はこぼれなかった。
大好きなのはストレート・ヘア。
だって、さらさらと風に流れるのも私らしいと思うから。
大好きなのはメガネルック。
だって、メガネをかけた私も「かわいいっ!」と思うから。
鏡に映るのはストレート・ヘアに髪をまとめて、べっ甲ぶちのメガネをかけた私。
「うん、かわいいわよ」
微笑みかけると鏡の中の私も微笑む。
「うんっ!今日も一日頑張りましょう」
ゆっくりと立ち上がって歩きだす私の一日のスタート。