ぺちゃくちゃ、わいわいと騒がしくしながら下校する仲良したち。
ある店の前でふと足が止まる。
「寄ってく?」
一人の問いかけにすかさず「いいわね」の声がかかる。
「菜由はどうするの?」
「もちろん行くわ。ちょうど買いたいものもあったし」
菜由と呼ばれた小柄な少女が特徴ある目元をキリリとさせながら答えて、全員の意見が一致する。
「よっし、じゃあ行きましょう」
言い出しっぺが元気に入口の自動ドアに立ち、他も続いて店内で一時解散。
「じゃあ、後でね」
各々目的の売り場に向かってバラバラに別れていった。
しばらくして、皆それぞれ思い思いの品物をカゴ一杯につめてレジの手前で合流する。
「あーっ、やっぱり100円ショップは安くていいわよねぇ!こーんなに買っても1000円行かないんだから」
言い出しっぺの少女が化粧品で一杯になったカゴを見せびらかすようにする。
「本当ね、今月はお小遣いピンチだし、助かっちゃうわぁ」
別の子のカゴはお菓子で一杯になっている。
「確かに。欲しいものはいつもあるし」
そんな菜由の言葉に二人がカゴを見て、一瞬固まる。
「あんた何買っているのよ!」
一人があきれたような声を出す。
「え、何って?学校に穿いていくソックスに決まっているじゃない」
そう、菜由のカゴに満載されていたのは一足100円の白の三つ折ソックス。
カゴを手に何を当たり前の事を聞いているの?と言った感じで菜由が答える。
「ほんっと菜由ってファッションにお金かけようとしないわねえ。ちょっとはブランドとか気にしないの?」
もう一人も信じられない!といった表情を浮かべている。
「何言っているのよ。ソックスなんて白ければそれで構わないじゃない!100円ショップだったらダメになったらすぐにたくさん手に入るし」
菜由はそのリアクションの方が信じられない!と言った感じで反論する。
「大体そんなものにお金をかけるくらいだったら最新のPDAでも買ったほうがよっぽど得だと思うわ」
二人は菜由の論理に黙ってため息をつく。
「菜由はちっちゃくてかわいいし、ファッションにさえ気を遣えばすぐにいい男ゲットできると思うのにねぇ」
ため息と一緒に言葉が飛び出す。
「そんなこと言ったって学校じゃ制服なんだし、ソックスなんて誰も注目しちゃあいないわよ」
否定する菜由にもう一人が首を振る。
「男の子ってねえ、やれ『あいつのスカート短いよな』とかソックスのブランドとか細かいところも結構見ているものよ。でも……菜由の場合はこの性格ナントカしないとダメかもネ……」
「全く、人を何だと思っているのよ!」
菜由は(そんなものなのかしらね?)と二人の足元に縫い付けられているどこかで見たことのあるようなマークを視界の端に入れながらちょっと拗ねたような声を出した。
鼻歌交じりに菜由が廊下を歩いている。
右手に持っているのは念願かなって手に入れたPDA。
かねてから欲しかった秘密兵器に菜由は上機嫌。
愛機を自慢できる相手を探して歩いていたのだ。
「お……」
そんな彼女の視界が捕らえたのは最近話をするようになった違うクラスの男子。
「おーい!」
大きく手を振りながら駆け寄って行く。
「あ、神谷さん。やけに機嫌よさそうだね、どうしたの?」
「ふふーん、ホラッ!」
右手を誇らしげに掲げる。
「見て見てっ!いいでしょ?」
彼は一瞬固まった後、おそるおそる「こ、これは……」と一言。
「PDAよ、PDA!最新ヴァージョンなんだから。やっと手に入ったわ」
少し鼻をぴくぴくさせながら自慢話が続く。
「どうせ持つならこのシリーズね。あなたにもオススメするわ……ん?どうしたの、じいっと見つめちゃって」
自慢話を続けていた菜由が彼の視線に気づいて話を止める。
「え?……うん、神谷さんってこういったマシンにはブランドとかこだわっているなぁと思ってさ」
その時、彼の視線が足元に注がれているような感じがして菜由の耳元が赤く変化する。
「もうっ!」
菜由は「神谷さん、いきなりどうしちゃったんだよ?」という彼の言葉を背中に受けながらずんずん歩いてその場を立ち去ってしまった。
「あ、神谷さーん!」
その日の放課後、帰ろうとしていた菜由に聞きなれた声がかかる。
「何よ……?」
先ほどの会話が今一つ引っかかっている菜由の声は不機嫌混じりだ。
「いや……さっき何かまずいこと言っちゃったようでさ。ゴメン」
彼のお詫びがかえって先ほどの事を思い出させて菜由の表情を不機嫌にさせる。
「別にいいわよ……で、何なの?それだけのために呼び止めたわけ?」
菜由のご機嫌が直らないことに彼の表情が動揺を浮かべる。
「え……?いや、その、ね。あ、……そうそう、今度パソコン新しいのを買おうかと思ってさ、一緒に見に行ってくれないかなと思ってさ……ホラ、神谷さんパソコンとか詳しいし、アドバイスもらえたらなぁと」
オロオロしながらお誘いを口にする彼。
「なーんだ、そんなことなら構わないわよ。私も欲しいパーツあるし。今度の日曜でいい?」
「え?本当にいいの」
あっさりオッケーが出たことに彼は拍子抜けした表情を浮かべながらも嬉しそうな声を出す。
「いいわよ。待ち合わせは駅前に11時でいいわね?」
待ち合わせ場所から時間まで自分のペースで決めてしまう菜由に彼は頷くだけだ。
「なゆーっ!帰るんだったら一緒に帰ろうよ!」
そんな二人に菜由の友達から声がかかる。
「いいわよー」
菜由が右手を大きく振って友達に答える。
「あ、神谷さんそれじゃあ日曜日楽しみにしているよ」
彼の言葉に「じゃあ、そういうことで」と返して菜由は友達の方へ走っていった。
菜由が右手を顔の前で振りながら拒絶のポーズを取る。
「いいわよ!別に新しいの買わなくたって」
「ダメだって!はい」
その言葉を無視するように友達が菜由にカゴを押し付ける。
「だからぁ、パソコン見に行くだけだって!」
菜由の反撃に別の友達が首を振る。
「アンタねぇ、彼の目的がそれだけの訳ないじゃない!パソコンなんてあくまで言い訳で、デートのお誘いに決まっているじゃない。うん、絶対に間違いないわよ」
あれから友達に「何話していたの?」と聞かれた菜由が先ほどの会話を再現した瞬間
「それってデートのお誘いじゃない?ほらぁ、行くわよ」と二人が菜由を引きずるようにして連れて来たのがファッションのお店。
そして勝手にカゴに入れたのが一足1000円するブランド物のソックス。
「これ最近売り出されたばかりのシリーズで、人気ナンバー1のソックスなの。デートの時くらいファッションに気を遣いなさいよ!」
「これならパンツルックでもスカートでも可愛く合わせられるし、彼のオメガネにも充分適うって」
何を言っても聞き入れてくれない友達に菜由も最後は観念して財布からお札を引っ張り出した。
「まーったく、とんだ散財だったわよ」
日曜日の朝、菜由はブツブツ文句を言っていた。
その視線の先にあるのは先日友達に強引に買わされたソックス。
「マークがついているだけで、いつものヤツと変わりないじゃない!これで値段がヒトケタ違うなんて考えられないわ」
文句を続けながらもソックスに手を伸ばす。
「高かったんだし、穿かなかったらもったいないし」
誰にともなく言い訳しながらソックスを足に通す。
「あ……」
その瞬間、自分の中に何だか違った気持ちが湧きあがってくるのを感じる。
100円ショップで買ったのとは違う穿き心地、パッと見たときの「何かが違う」感じ。
(男の子ってねえ、やれ『あいつのスカート短いよな』とかソックスのブランドとか細かいところも結構見ているものよ)
友達の言葉が妙に耳によみがえる。
「ふ、ふふん。さすが私ね、似合うわ」
思っても見なかった感覚に動揺しながらも鏡に足元を映してみる。
「ファッションなんて気にしていなかったけど……」
こうなってくるとソックスだけがブランド品という格好が妙に気になってくる。
時計をチラリ、と見やり、しばし考える素振り。
「うん、そうしましょう!」
つぶやいて携帯電話に手を伸ばす。
「あ、もしもし。うん、待ち合わせ時間変更して欲しいの。ちょっと買い物してからにしたいから……え?何を買うかって?秘密よ秘密!一緒にぃ?ダメよ、あとでゆっくり付き合ってあげるからいいでしょ、うん、じゃあね」
電話を切るとデートに間に合うまでに買い物すませなきゃ!とばかりに勢い良く部屋を飛び出す。
早足で歩きながら友達にメールを打つ。
「この前買ったソックスなんだけど、アレに合わせるとしたらオススメのシャツってどこのブランドが良いの?」と。